INTERVIEW 建築家インタビュー 03
素材を探究する
建築家
加藤 匡毅
一緒に触って、考える
――お2人は、出会ったときのことを覚えていらっしゃいますか。
加藤匡毅さん(Puddle 代表取締役・以下、加藤):父の友人を訪ねて新木場に行ったときに紹介してもらったんですよね。あれ、あってるかな?
渡辺健人(高広木材 代表取締役 専務・以下、渡辺):そうです。会社に来てくださって。

加藤:実はウエスタンレッドシダーを見に行ったわけではなかったんですけど。その頃、東京でよくレッドシダーを見かけるようになっていて。僕はダンデライオン・チョコレートの仕事をし始めたタイミングで、そこでこの材を使いたい、知ってみたいっていう欲求はありました。
サンフランシスコのちょっと北側の、太平洋からの風を強く受ける崖っぷちにシーランチという、1960年、70年代に建築家が開発した建物群があるんです。風を直接受けるんじゃなくて流しちゃうとか、外壁はどんどん朽ちていくけれど、その様がいいだろうっていう考え方でつくっていて。それがめちゃめちゃかっこよくて、学生のときにものすごく衝撃を受けたんです。あれもレッドシダーなんじゃないかな。サンフランシスコから来るダンデライオン・チョコレートに対して、使いたいなと思ったんですよ。

渡辺:加藤さんのイメージをいろいろ聞かせてもらって、社長は「おもしろい人が来た」って目をキラキラさせていました。倉庫で実演を交えながら、 こうしたらいいんじゃないか、あれはどうだって。加藤さんも木材の話をちゃんと聞いてくださって。
加藤:1枚1枚、この木はどうなんだって話をしてもらったのがすごく楽しかったですね。まだ床材とも呼べない、なんにでもなれる木材を、カウンターにしたらどうだとか、ベンチにしてみるとどうだろうとか相談しながら。仕上げていない、最終製品になる前のものから一緒に触って。あれがすごくよかった。高広木材さんとやる楽しさって、そこなんだろうね。お互いに話しながら手を動かして、焦点が合っていくのはすごくうれしいですよね。
渡辺:その後詳細な図面をいただいて、すぐ取り掛かって。建築家さんと直接話して実際にプロジェクトが動いていく経験がまだなかった頃なので、すごく勉強になりましたし、新鮮でした。
居心地の選択肢をつくる
――建築家のオフィスには素材のカタログがずらっと並んでいるイメージがありますが、加藤さんのオフィスにはそれがないと聞きました。素材のストックは頭のなかにあるんでしょうか。
加藤:カタログのなかから選ぶって嫌なんですよね。決まったパレットから絵の具の色をそのままのせているみたいで。見聞きしていいなと思ったものはメモするし、定番で使っているものもありますよ。なんかね、冷蔵庫のなかにあるものは見つけられないけど、建築に関わる数字とかデータって覚えていられるんです。現場に行って長さを測るとか、身体性を伴うと忘れない。ラッキーな才能ですよね。
渡辺:1つの現場のなかでも、ものすごい数の材料が動いていると思うんです。それにも関わらず、加藤さんは割と一つひとつの素材に関心があるというか、解像度がありますよね。
加藤:なにを目指しているかによるんだけど、僕の場合、調子がいいときもそうでないときも、話したいときも1人でいたいときにも居られる場所があるといいなって考えているんです。
考えている主体が自分である以上、自分の感覚を飛び越して一般解的な心地よさを考えることはとてもむずかしい気がしていて。万能に効く薬みたいなのはなさそうだって。僕が考える居心地のよさは、その物件において、できるだけ多くの人に居心地のよさそうな場所の選択肢を提供するってことかなと思っています。そのためにも、いろいろな素材を使いたいと思うんでしょうね。
独立したばかりのころは、そのブランドに合わせた枠のなかで、決まった素材でデザインを展開していたこともありました。もちろんそのおもしろさもあるんだけど、こればっかりやっていたら“こういう人”になりそうだなって。それとは逆に、いろいろ試していくプロジェクトをやった結果、こっちがそのまま続いているのかもしれないですね。

渡辺:毎回新しいものや考え方を取り入れていくのは、なかなか続けるのが大変ですよね。そこに疲弊してしまう人もいるように思いますが、加藤さんはそういう感じがないというか。すごく楽しそうです。
加藤:一応、軸があるからだと思う。1つは職人さんと、彼らもやったことがない、自分たちにもちょっとチャレンジになるような表現をしたい。そのプロジェクトがつくられるローカルエリアで馴染んでいる、親しまれている素材を使うこと。あとは、竣工した後のほうがどんどん良くなってほしい。この3つは最低条件で。どこかが強かったりすることはあるけれど、このなかでやっているから苦しんでいないんだろうね。
高広木材での社長とのやり取りは、まさに、お互いの半歩先を探っていくみたいな感じだったからすごく楽しかったんです。レッドシダーも、ただ紹介されただけでは使わなかったかもしれない。社長があそこまで熱を持っていて、自分たちが愛してやまないんだということを伝えてもらって。これは探究しがいがあるなと思ったから、いろいろな場面で使っているんでしょうね。自分のプロジェクトのなかでは1度使って終わっちゃう素材もいっぱいあるんです。レッドシダーは、まさか自宅にまで使うとは想像していませんでした。
算数のなかの美学
――ご自宅の外壁で使っているウエスタンレッドシダーは、やわらかい青で塗装されているのが印象的です。
加藤:最初は黒にしようかと思っていたんです。ただ、この土地って40年空いていて、お隣とお隣のあいだに入れてもらっている家なんですよね。なにもなかったところに黒い存在感のあるものが入ってくるのは自分だったら嫌だってことになって。あっちの緑の外壁と、こっちのグレーのあいだの色。視線に入っても嫌じゃないものを探してみたら、いい色を見つけました。

渡辺:レッドシダーの風合いも活かされていていいですよね。だけど正直、これは大変でした。
加藤:チャレンジしたよね。5種類の幅をランダムに貼っている風にしているけれど、必ずサッシとぴったり合うように計算している。今見ても美しいなと思います。
渡辺:施工も大変だったんじゃないかと思います。ランダムにしなくても収めることはできましたよね。
加藤:それは算数でできることでしょう。なんか、算数のなかに美意識を入れていたんです。建築家の自邸だから、やろうと思えばいろんなことが考えられるけれど、今回はそこにあんまり興味がありませんでした。歳を重ねても使える平屋で、切妻をちょっと変化させるくらいでいいかなって。

加藤:すごくシンプルな形の建物なので、均質なものが続いている退屈さではなくて、寄っていったときにまだ世界観があるみたいなのがいいなって。そういうの好きなんですよ。よく見ると発見があるというか、不均質な均質みたいな。このときにはそれを、高広木材さんの手間に求めたっていうことですね。
渡辺:最初は3種類の幅を考えていましたよね。だけど予算が合わなくて、どうしたら下げられるか考えているなかで、細いものを入れたらすごく安くなったんです。それで、逆に幅を増やしませんかって提案をしました。
加藤:そうそう。さらに4種類より5種類のほうが安いってことになって。そんなことあるんだって。

渡辺:3種類のときには規格品のなかで考えていたんですが、そこから外れた未活用材の領域に踏み込んだらぐっと下がったんです。あれは発明というか、気づいてしまったというか。
直接お話しながら仕事ができる楽しみであり、だからこそ新しいアイデアが生まれていくのは、とても楽しかったです。
加藤:そういうのがおもしろいよね。僕もまだまだレッドシダーのことを知りたい。カナダでの伐採の現場や製材の様子も見てみたいです。一緒に行きましょう。よし、楽しみができたぞ。
建築家
加藤 匡毅かとう まさき
一級建築士。工学院大学建築学科卒業。
隈研吾建築都市設計事務所、IDÉEなどを経て、2012年Puddle設立。横浜市金沢区で幼少期を過ごし、歴史的建造物と新造された都市計画双方から影響を受ける。
これまで15を超える国と地域で建築・インテリアを設計。各土地で育まれた素材を用い、人の手によってつくられた美しく変化していく空間設計を通し、そこで過ごす人の心地良さを探求し続ける。
著書に『カフェの空間学 世界のデザイン手法』(学芸出版社)。